Blog Post “SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.6

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.6
1月

15

2015

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.6

僕はビッグウェイブサーフィンが好きだ。
(もちろんスモールウェイブも好きだよ。ENJOY THE RIDE が我らHICメンバーの合い言葉だ。)

その理由は、波が大きくなればなる程サーフィンからレジャーの要素が消えて、アドベンチャー要素やサバイバル色が濃くなるからだろう。
サーフィンの楽しみ方は人それぞれだが、僕の場合はサーフィン=ライフだと強く感じていて、それはそのまま〈サーファーとして生きる〉という自分自身のライフテーマにもなっている。(カッコつけ過ぎたか?)

当然命がけでサーフィンしようなんて輩はそう多くない。
いつも混雑してる千葉の海も、6フィートを超えれば出来る場所も限られて、サーファーの数も9割減だ。
それが8〜10フィートとなるとさらにメンバーは絞られていつもの顔ぶれになる。

そんな日、いわゆるTHE DAYと呼ばれる様な日は、お互いをリスペクトしあってるサーファーだけになる。
一切邪魔をしないし、トラブルがあれば全力で助け合える仲間達だけになる。
そんな連帯感もお気に入りの要素だろう。

その日の松部サードリーフは鎌田靖と2人。
灘から見ていた友人が数名いたらしいが、時折降り出す雨と遥か沖合いでの長い波待ちに一部始終を目撃した人はいなかったようだ。

雨が海面を叩くと決まって波は止まる。
ひやりとした風が吹き、雲が行くまで集中を切らさず待たねばならない。
海ごと動いているようなコンディションの中で山の景色を合わせながらラインナップを維持する。

雲が切れて太陽の光が射すとセットが来るのが見えた。
仕事でもサーフィンでもチャンスの波はいつも突然やってくる。
臆さずそのチャンスを掴めるように、いつも刃を研ぎ、常に準備を整えておかなくてはいけない。
まして大きくて良い波は一度逃してしまったらそうは来ないのだから。

セットの前に来たやや小さめのうねりをやり過ごすとボトムが窪んでボイルが沸き立つのが見えた。

1本目の波。
少し沖からボイルに合わせてパドルを始めるとスムースに板が走り出した。
強烈なサックアップのSHOTGUNピークに較べると松部のアウトサイドピークは広くて、大きくて、物凄い水の量を動かしながらブレークを始める。

いつものアウトサイドリーフは、テイクオフからボトムターンをしてショルダーに出るとトップターンやカットバックをして次のセクションに繋ぎ、再びターンをしながらセカンドリーフを越えて掘れ上がるファーストリーフへ向かう。

要するにターンをしたりプルアウト出来るような緩慢なセクションがあるのだが、この日の波は違ってた。

テイクオフをしてボトムに向かうが、波はどんどん掘れて立ち上がり、ショルダーも切れることなく張って行くのだ。
ギリギリのポジションでレールを入れてダウンザラインをキープしていく。
ボトムにも降りきれないし、もちろんトップからプルアウトなんかしようとしたらフィンアウトして命取りだ。

「絶対にメイクしてやる。」という思いでドロップし続けるが、過去に経験のない長さに一瞬の不安がよぎる。
その不安が胸に上がってくるとラインもトップに上がり吹っ飛ばされるのは必至だ。

気が上がり、心臓にプレッシャーがかかる。それが口から出ていかないようにグッと押さえ込んで丹田に留める。

長いドロップに再び上がってくる気。
それをまた丹田に納める。

それはちょうど、ジェットコースターの急斜面を落下するときに似ている。
お尻がスッーとするあれだ。
ジェットコースターではあの無重力感を楽しんでいるのだろうが、ビッグウェイブドロップでは気も身体も浮かさずにボードに圧力を乗せていくようにしている。

2度、3度、4度と気が上がりかけては押さえ込むがボトムにたどり着かず、この無重力感はいつまで続くのかと恐ろしくなるほどだ。このままインサイドのフジツボだらけのテーブルに乗り上げるか、はたまた崖に空いた洞窟に吸い込まれるのかとよぎる恐怖心をまたまたグッと押さえて板に加重する。

張り詰めた緊張感はその波を長く感じさせる様でもあり、もの凄いスピードで乗り切った事を思えばほんの僅かな時間なのだろうか。いわゆるZONEとか無の境地とは違うのかもしれないが、僕はそれを神様のラインと呼んでいる。

そのラインから離れた途端、板や身体に重力が戻ってきた。
板のレイルが水を切る感覚が足から伝わり、安堵感と共に波のエネルギーが全身に満ちてくる。

気がつけば僕はその波を乗り切り深いチャンネルの真ん中にいた。
その波は今までになく大きく、松部のリーフの最も外側をブレイクして、串浜港が近く感じるほど遠くにたどり着いていた。
それはおよそ500mに及ぶひたすらのダウンザラインの長く完璧な波で、30年を超えるサーフィン人生で最高の波であり、最高のサーフライドだった。

2本目の波も同じだった。
一生のうちに、こんな波に巡り会えるサーファーはどれくらいいるんだろう?
2年前には死にかけていた時、僕はそれまでの人生に充分満足していたけど、まだこんな体験があったと知ると、生きてて良かったとつくづく思った。
それも世界で最も愛するホームポイントで起きた出来事に感激し、神様に何度も感謝をした。

まるで天国にいる気分だったんだ。
それまではね。
天国と地獄は背中合わせにあると思い知らされたのは、3本目の波でバレルに包まれた後からだった。

バックナンバー
“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.1

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.2

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.3

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.4

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.5


筆者紹介

ishimaru

HIC JAPAN TEAM RIDER
石丸 義孝 – Yoshitaka Ishimaru

生年月日:1963.4.2

ホームポイント:マリブ 松部 SHOTGUN

ボードスペック
:5’10” x 20 1/8″ x 2 7/16″ Rocket Fish
:6’4″ x 18 1/4″ x 2 1/4″ Amplifire
:8’4″ x 19 5/8″ x 3+ SHOTGUN SPECIAL