Blog Post “SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.7

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.7
2月

24

2015

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.7

極端に掘れ上がるSHOTGUN PEAK。
少ないパドルでトップスピードにもっていき、ボトムに風が入らないようにして、さらに重さを味方にしても板を真下に落とせるようにセットしてあるSHOTGUN SPECIAL。
究極のピーク用に仕上がったこのサーフボードは松部のアウトサイドにもピッタリだった。

(注:当日の画像は残念ながら無く、この画像は別なものです。せめてイメージだけでも。編集者より)

何かが違っていればリップにつかまりドロップはメイクできなかっただろうし、また何かが違っていればマッシーなラインまで出ていたのかもしれない。
もちろんこの日の波が特別だったのは間違いない。
しかし、サーフボード自身が本能的にクリティカルポジションをキープする。そういうサーフボードってあるものだ。
そしてこのサーフボードがそれだった。
危険と背中合わせのギリギリを走れるこのサーフボードだから3本目のバレルライドに繋がったのだろう。

1本目を乗り終えてラインナップに戻ると鎌田靖は喜声を上げ、満面の笑みで私を迎えてくれた。
退院当初は車の運転はおろか、サーフィンも諦めたほうがよいと告知されていた僕の身体。
長いブランクや後遺症などを心配していたからこそ、復活のライドを心から喜んでくれていた。

2本目も同じような波だった。
波のフェイスにレイルをかませ斜めに横切るように延々とドロップが続いた。
1本目の波が自信となり少し余裕をもてた。
ミスをしない様ノーズとフェイスを見つめながら視界の端にある景色を遠くに見ていた。

500mもの距離をほとんどターンもせず(というよりターンできなかった)走り終えると、いつか雑誌で読んだ四国のビッグウェイバー櫛本さんの「サーフィンにターンはいらないって悟った。」というフレーズが頭に浮かび、その領域には到底及びはしないが少しだけ分かったような気になった。

コンテストでのポイントに必要なマニューバーを上手く描くことはできないが、究極の波に調和するラインはとてもタイトで、その日の僕はその神様のラインを上手く走ることが出来ていた。

ハイになっていた。
最高の気分だった。
沖に戻り再び次の波を待つ。
2本の波を乗り終えた頃にはすでにもう2時間は経過していただろう。
海面に浮かびながらにして、うねりを越える度世界の頂点に持ち上げられているようだった。

3本目の波をつかむまでまた30分は待っただろう。
潮が大分上げたようで、さっきまで引っかかっていたボイルでは完全にピークしないようになってきた。

3本目の波はさっきまでとは違い、テイクオフした後に波が掘れあがるまでにトリミングが出来るほどやさしい走り出しだった。

サイズもエネルギーも、またタイドやウネリのスピードも最高頂だった前の2本はリーフの一番外側にヒットしてブレイクしていたが、この波はトリミングして走った分やや内側の浅いリーフの上のラインをとることになった。

セカンドリーフに乗り込むとインサイドの崖が近づいて来るのが見える。
さっきとはまったく違う景色だが、それは幾度となく挑んできた馴染みのラインだ。
セカンドリーフを越えファーストリーフに乗り込むには2つのピークの選択が必要になる。
北ウネリのピークか南ウネリのマリブよりのピークから行くかだ。
潮回りやディレクションによってそれらは変化していく。
その選択によってドデカいバレルに包まれるか、それともドデカいスープを背中に背負い込み崖まで吹っ飛ばされるかだ。

その日ノリノリの僕は導かれる様に北ウネリがヒットする奥のピークに向かった。
危険でも、それがビッグバレルへの道だと判断したからだ。

セカンドリーフまでは水深もありブレイクも素直だか、ファーストリーフからは松部独特のクセのあるブレイクに変わる。
セカンドリーフからファーストリーフに乗り込むのは、高い山を滑り降りてきて崖に飛び込むのによく似てる。
それも2段掘れの崖だ。

上の段を降りるとき下の段はどうなってるのかはよくわからない。
波によって、潮回りによって、異様に、絶妙に変化していくのだ。
上の段を上手くクリアして下の段に入れたらボトムに押し出されないようにエッジをひっかけてGに耐えて、滑り降りてきた2段の部分がひとつにまとまった分厚いリップの下に飛び込んでいく。

松部バレルは他に類を見ない独特のバレルだ。
日本にはリバーマウスの様に縦に広がる大きくて美しいバレルが数多く存在する。
それらと比較すると美しさでは劣るかもしれない。
しかし、分厚いリップと動く水の量や、ゴツゴツとささくれ立って巻き上がるバレルは男性的で、とてつもなくワイルドで凶暴だ。

そこに飛び込む時私はいつも神風の気分だ。バレルをメイク出来る可能性はそう高い分けではない。
多くの場合は、数秒間の水のトンネルを走った後出口の扉は閉じられる。
その後、洗濯機の中に放り込まれたまま100メートルを移動する特急電車に乗ったような目に合わされる。
それでも、そのバレルの中に包まれる時間を永遠のように感じ、最高の喜びを感じてしまうのはサーファーの性なのだろうね。

その日はいつになく大きなバレルが待っていた。
僕の横にもう一人居れるほど。
そこは音の無いの6畳間。
リップが飛ぶ出口はおよそ一間半はあったんではなかろうか。
異空間に驚きながら、なにかしらのエネルギーを受けて力が漲り、自分が特別な存在になったような錯覚に陥る。

数秒間走ると(十数メートルなのか数十メートルなのかハッキリはわからないが)どこからか恐怖心が湧いてくる。
大きなバレルのまま出口は遠ざかって行く。
「いつか出られるのかな?」

そう思った直後、足元の揺れが激しくなった。追いついてきたホワイトウォーターがテールに触れて、フィンに引っかかった瞬間サーフボードは足元から消えた。
僕は「人間ってこんなに早く回転出来るんだな!」て感心するほどコマのように水の中を回りながらインサイドに飛ばされた。
巻かれ方が落ち着いて来た頃、ふっと足首にあるリーシュに意識がいくと、あるはずの抵抗は一切無くて、サーフボードごと失ってしまったことに気がついた。

バックナンバー
“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.1

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.2

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.3

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.4

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.5

“SHOTGUN SPECIAL” STORY vol.6


筆者紹介

ishimaru

HIC JAPAN TEAM RIDER
石丸 義孝 – Yoshitaka Ishimaru

生年月日:1963.4.2

ホームポイント:マリブ 松部 SHOTGUN

ボードスペック
:5’10” x 20 1/8″ x 2 7/16″ Rocket Fish
:6’4″ x 18 1/4″ x 2 1/4″ Amplifire
:8’4″ x 19 5/8″ x 3+ SHOTGUN SPECIAL